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東京高等裁判所 昭和57年(ラ)67号 決定 1982年12月23日

抗告人

荻野昌義

右代理人

正田昌孝

主文

原決定を取消す。

村上不二男に対する売却を許可しない。

理由

一抗告人は、主文同旨の裁判を求め、その理由は、抗告状に記載された執行抗告の理由を詳述した別紙「抗告理由の補充書」記載のとおりである。

二当裁判所の判断

1  抗告人は、原審不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)における債権者宝生産業株式会社(以下「債権者」という。)の担保権が消滅したことを理由に、売却許可決定に対し執行抗告をするものであるから、まず、かかる執行抗告が許されるかどうかについて検討するに、民事執行法第一八八条の規定により準用される第七四条第二項及び第七一条第一号の各規定によれば、「競売の手続の開始又は続行をすべきでないこと」の事由がある場合には、売却許可決定に対し執行抗告をすることができるものであるところ、担保権の実行としての競売は、担保権という実体上の権利に内在する換価機能に基づいてなされるものであり、担保権が不存在ないし消滅によつて換価機能がなければ、競売手続を開始又は続行することができない性質のもの(ただし、買受人の地位の保護のため、代金納付後は買受人の所有権取得の効果をくつがえすことができない(同法第一八四条参照)。)であるから、担保権の不存在又は消滅は、同法第七一条第一号に掲げる事由に該当するので、これを理由に売却許可決定に対し執行抗告をすることができるものと解すべきである(債務名義により行われる強制執行において債務名義に表示された実体上の請求権の不存在ないし消滅の場合はこれと異なり、執行機関としては、債務名義に表示されたとおりのものが存在するものとして処理しなければならないので、請求権の不存在等はそれ自体が強制競売手続の開始又は続行を妨げる事由とはなりえない。債務名義に表示された請求権の存在又は内容を争い、債務名義の執行力を奪うためには、請求異議の訴え(同法第三五条)によらなければならない。)。また、担保権の不存在又は消滅を理由に競売開始決定に対する執行異議の申立てができる(同法第一八二条)が、このことが前記のように執行抗告が許されることの妨げとなるものでない。そして、抗告人は、右の売却許可決定の目的たる不動産の所有者であり、担保権が消滅したにもかゝわらず、右の売却許可決定によりその不動産の所有権を喪失することを主張するものであるから、同法七四条第一項の規定により執行抗告が許されることは明らかである。なお、担保権不存在ないし消滅により競売手続の開始又は続行が許されないことを理由に売却許可決定の取消しと売却不許可の決定が確定したときは、売却許可決定が失効するだけではなく、競売手続を更に続行する余地もないこととなるのであるから、競売開始決定の取消しも、また、競売申立却下の裁判も不要となる。

2  そこで、本件競売事件における債権者の担保権が消滅したかどうかについて検討する。

(一)  本件競売事件の記録及び本件記録中の抗告人提出にかかる領収証(写し)一〇通(甲第一号証ないし第一〇号証)、供託書(写し)一通(甲第一一号証)によれば、本件競売事件における競売申立ての原因たる抵当権の被担保債権は、債権者が抗告人ほか一名を連帯債務者として、昭和五四年一〇月二九日、金三〇〇万円を、弁済期日を同年一二月二七日、利息及び損害金を月三分とする約定で貸与した貸金債権であり、弁済期日までの利息として金一八万円が天引きされたものであつたこと(競売申立書及び右抵当権の目的不動産の登記簿謄本には、利息は年一割五分、損害金は年三割との記載があるが、前掲各領収証(写し)によれば、毎月金九万円の金員が損害金名下に前払いの形で支払われていることが認められるので、利息及び損害金は月三分の割合であつたものと認めるのが相当である。)、別紙計算書記載の支払年月日欄記載の日に、支払額欄記載の各金員が抗告人から債権者に支払われたこと(なお、同計算書のうち、同年一〇月二九日の金一八万円(天引分)、同年一二月二六日、昭和五五年六月二七日、同年七月二七日の各金九万円の支払については、いずれもこれを直接証する領収証が提出されていないが、前掲甲一号証の領収証(写し)によれば、同年一月二六日に金九万円が同月二七日から同年二月二五日までの期限後損害金の前払いとして支払われ、同月及び同年三月にも各金九万円が損害金の前払いとして支払われている(甲第二号証、第三号証)ので、仮に、同年一月二六日以前の利息ないし損害金が未払であつたとすれば、右の損害金の前払いとして支払われた金員は、当然まずこれに充当されたものと考えられ、したがつて、抗告人主張のとおり、同日までの利息及び損害金は全額支払ずみになつていると認めるのが相当であり、また、同様に、前掲甲第四号証ないし第一〇号証の各記載内容からして、同年六月二七日に同年四月二六日から同年五月二五日までの分として、同年七月二七日に同年五月二六日から同年六月二四日までの分として、各金九万円の支払いがなされたものと認めるのが相当である。)、が認められる。

(二)  右のとおり、抗告人は債権者に対し、元金三〇〇万円につき月三分の割合による利息及び損害金を支払つていたものであるところ、月三分の利率は利息制限法に違反することが明らかであるから、同法所定の制限を超える超過部分は、支払われた時点で、元本に充当されたものとみなすべきである。そして、その元本充当額及び残存元本額は、別紙計算書元本充当額欄及び残存元本額欄記載のとおりと認められる(なお、前記のとおり、昭和五五年三月までは抗告人の毎月の支払いが損害金の前払いとしてなされたものとなつているが、前払いの特約があつたものとは認め難いので、発生した損害金に対し支払われたものと取扱うのが相当であり、昭和五四年一二月二六日に支払われた金九万円は全額元本に充当されたものとみるべきである)ので、昭和五六年二月二六日現在における残存元本額は金二六八万八五一円となる。

(三)  前掲供託書の写し(甲第一一号証)によれば、抗告人は、債権者を被供託者として、昭和五七年二月一六日、債権者が受領を拒否したため、前記残存元本額及びこれに対する昭和五六年二月二七日から昭和五七年二月五日までの利息制限法最高限度である年三割の割合による損害金七五万七九八三円及び本件競売事件の競売手続費用として金二八万円合計金三七一万八八三四円を供託した事実が認められる。

(四)  従つて、本件競売事件における抵当権の被担保債権は、すべて供託によつて消滅したものというべく、これにより右抵当権も消滅したことになる。

3  以上によれば、債権者の担保権(抵当権)が消滅したことを理由に売却許可決定の取消しと売却の不許可を求める抗告人の本件抗告は理由があるので、これを認容することとし、主文のとおり決定する。

(香川保一 越山安久 吉崎直彌)

別紙計算書<省略>

抗告理由の補充書

御庁昭和57年(ラ)第67号(東京地裁八王子支部昭和57年(ソラ)第2号)執行抗告事件について、抗告人はつぎのとおり抗告の理由を補充します。

一 本件被担保債権である金銭消費貸借は、抗告人(債務者)が金融業者である債権者(本件競売申立人)宝生産業株式会社から、昭和五四年一〇月二九日金三〇〇万円を次の約定で借り受けたものである。

弁済期 昭和五四年一二月二七日

支払場所 債権者住所地

利息 一ヶ月三分、但し弁済期までの利息として一八万円を天引され、現実に交付を受けた金額は二八二万円である。

債権者が本件競売申立書に上記と異る約定を記載しているのは事実に反するものである。

二 抗告人は別紙計算書記載のとおり、昭和五六年二月二六日までに前記天引金額を含めて合計一三五万円を支払つた(甲第一ないし第一〇号証)。

ところでこれら各支払いの中には書証(領収証)のないものがあるが、次のとおり支払いの事実は認められるものである。

まず本件貸付金交付時に一八万円を天引された点については、高利をとる金融業者が利息を天引することは、裁判所には数多くの事件を通じて顕著な事実であるし、抗告人が順調に損害金を支払つた時期の甲第一ないし第三号証により、債権者が損害金をいずれも前払い的に計算している事実によつて十分推認できるものである。

次に昭和五四年一二月二六日支払いの九万円については、甲第一号証(五四年一月二六日付)が昭和五五年一月二七日からの損害金として計算しているところによつて、それ以前の損害金の支払い(五四年一二月二六日)が済んでいることは明らかである。

次に昭和五五年六月二七日および同年七月二七日支払いの各九万円についても、甲第三、第四号証によりこの二通の領収証の間二ケ月分(昭和五五年四月二六日から同年六月二四日まで)の支払いが済んでいることが明らかである。

三 抗告人は昭和五七年一月一四日の競売期日の前日(一三日)、債権者方へ金三二〇万円を持参して、弁済を申出たのであるが、この時債権者代表者は「四一六万円でなければ受け取れない」と言うので、抗告人は直ちに一度帰宅して五〇万円をつくり、同日再び三七〇万円を債権者方に持参し、提供した。この時抗告人は「とりあえず内金として受領して、競売の延期をしてもらいたい、不足分については二週間位のうちに支払うから」と懇請したのであるが、債権者はこの申入れならびに弁済受領を拒否した。ところでこの時抗告人が提供した三七〇万円は、利息制限法に従い過払い利息、損害金を元本に充当すれば、競売手続費用をも含めた本旨弁済として十分な金額であつたから、債権者の受領遅滞により以後損害金の発生はないものである。

四 しかし抗告人は、同日までの損害金に限ることを前提に弁済供託した場合、この弁済提供の事実が万一裁判所により認められず本件執行抗告が却下され、とり返しのつかない事態になることを恐れ、昭和五七年二月五日抗告人代理人正田弁護士により再度債権者に対して弁済受領の意思を確かめた。その結果、債権者代表者は「本件競売手続は既に競落人も決つたのであるから受領できない、元本、利息、損害金の合計(競売手続費用を含めない)は四〇〇万円を超える」などと言い、これに対し正田がそうでない旨を説明したが聞き入れようとせず、逆に「そういう立派なことを言うのなら供託したらいいでしょう」と語気強く述べて、明確に受領を拒絶した。

そこで抗告人は別紙計算書のとおりの計算にもとづき、残存元本および損害金合計三四三万八八三四円に競売手続費用として二八万円を加え、同年同月一六日東京法務局宛弁済供託した(甲第一一号証供託書)。別紙の元本充当の計算について、損害金は(債権者は前払いとして計算しているが、そのような約定はなく、またその性質上前払いということはありえないので)事後的に計算した。その結果昭和五四年一二月二六日支払いの九万円は全額が元本に充当されることになるものである。

これによつて本件被担保債務ならびに抵当権は消滅したので、本件売却を許可した原決定を取消し、あらためて売却不許可決定がなされるべき(民事執行法七一条一号)こととなつたものである。

五 なお、抗告人は昭和五七年一月一四日東京地方裁判所八王子支部内の入札実施場所にても、債権者代表者に対し三七〇万円を提供したが債権者に断わられたので、この時抗告人が「それでは仕方がないので、この金を保証金として知人に一五〇〇万円位で入札してもらおうと思う、そうすれば他人に競落されるのを防げる」と言つたところ、債権者は「そういうことをしても保証金は没収されるからやめた方がよい、それより他の競落人から五〇万ないし一〇〇万円を加えて権利を買い取ればよい」などと言つて、抗告人の関係者が競落しないように仕向けた。このような事実および前述のとおり昭和五七年二月五日にも受領を拒絶した事実から考えると債権者はあくまでも競売の実施、売却決定の確定を図ろうとする意図がうかがわれるのであるが、これは債権者と本件競落人が通じており、後日債権者が完全な配当を受けた後、本件不動産を抗告人に競落価格より相当高い金額で引取らせてさらに不当な利益を得ようと計画しているものと思われるのである。

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